匿名希望
匿名希望

拝啓 あのとき刹那的な世界を目いっぱい楽しんだ、めでたく活動6周年を迎える1/6日の島民へ おめでとう!!!!!!
#文芸
 そちらは雨粒が冷たく白い姿となって降りしきる寒い季節だと聞きました。
 まだまだそんな日々が続くとのことですが、いかがお過ごしでしょうか。
 この度こうして貴女にお手紙を書いた経緯といたしましては、先日いつものようにゆっくり散歩していた私の前に突如として現れた、気まぐれで魔女みたいな島の女神様にお話を伺ったからでございます。
 島の外のことを知ることができる女神様曰く、貴女がこれから記念すべき日をまた刻むとのこと。そして、それをお祝いできる機会があるということを知りました。
 私も一度貴女にお会いした者として直接お祝いしたいという気持ちが強くありましたが、それは叶わないようなのでいろいろと手を尽くした結果、この方法をとらせて頂きました。
 すっかり私は現実で会ったと思っていたのですが、どうやら貴女は本来とは別の姿になってこの島に来ていたようですね。
 まさか存在する場所自体が違ったとは思いませんでしたが、初めて貴女を見た時、不思議な島民がいたもんだなぁと驚いたものです。
 初対面の私のことを飽きもせずに海へ入るまで長々と雑談をしながら眺めたり、石像や木や岩にどんどんぶつかって行っては登ったり。風のように島中を走り回っていましたね。
 あの時、亀が好きと言って下さりとても嬉しかったです。しかし緊張のせいか貴女の期待した目を裏切るように通り過ぎてしまい、ちょっと気まずくなってしまいましたが……今ではいい思い出だと思っています。
 私にとって、あの出来事は始まりの物語だと思っています。貴女がこの島に来てくれたからこそ、この世界が始まって貴女と出会うことができました。 
 いつもいつも変わらない日々の中で、私のことを見てくれる人はいませんでした。
 おそらく何かが気になるのか立ち止まってくれる人がいたとしても、何もないだろうと思ったら声もかけずに追い抜いていくのです。貴女の場合でもきっと他の人と同じように期待する結果にはならなかったでしょうが、それでも貴女は私に何もなかったとしても、本当に最後まで『何もない』ということが分かるまで見てくれていました。
 たとえそれがただの興味やこれをしたらどうなるんだろう? という探求心から来ていたとしても、大きな島のちっぽけな亀に注目してくれるところや島中を走り回って全力で楽しんでいるところに私は強く心を惹かれました。そして小さな疑問にも丁寧に一つひとつ挑み続けた貴女の姿がとてもカッコよく、キラキラ輝いて見えました。
 海や他の世界に比べたら、この島はうんと小さくて狭いのだろうと思います。でもあの狭い世界の中だって、いつか行き着く結果は同じでもそれまでの道のりや選択肢はきっとたくさんあって、やってみないと見つけられない道や手段もきっとあります。
 私も貴女のように挑戦の歩みを重ねて、いつかは飛んでしまえるくらいに何事にも挑んでいける亀になりたいと思うようになれました。
 あの一瞬の世界の中ですら様々な挑戦をしていたのだから、いろんな人や物事に関わる活動を6年続けているというと想像できないくらいの困難や可能性に挑み、乗り越えていったのでしょう。きっとそのたびに人々の心に貴女の存在が刻まれていったと思います。
 貴女が見せてくれる世界はきっとキラキラ輝いているでしょうし、貴女と一緒ならきっと何だって楽しめることでしょう。
 遠い遠い島から、これからも続いていく貴女の輝かしい人生を応援しています。
 そしてますますのご活躍、ご健勝をお祈り申し上げるとともに、以上をお祝いの言葉とさせていただきます。
 敬具  

ーー 

「おーい、女神様の力で別の世界でも読めるように魔法かけてもらったぞ。あとは女神様の知り合いが運んでくれるらしい。いまカモメが案内してくれてるって」
「わるいね~亀さん。連絡とかまでいろいろ任しちゃって」
「いいってことよ。どっしり構えてくれてる島がいたからこそ、いい感じにまとまったんだし」
「うーん、良いこと言えたとは思うんだけど……覚えてくれてるかな?」
「ハハハ、まさか亀と島から手紙が来るとは思ってもないだろうね」
「せめて自分たちはあの短いかかわりの中でも、貴女に惹かれたところがたくさんあったんだよ、応援してるよってのが伝わればいいなぁ」
「彼女にとっては概念的な存在だろうし、戸惑うかもしれないけど、この気持ちは伝わってほしいね」
「すごいがんばって言葉を考えてたからね、亀さん」
「へへ。なんかこんなに、全力で走った後みたいにアツくなったのは久しぶりだよ」
「そうだね、教えてくれたあの神様には感謝しかないね」
「しっかし、彼女はあの素晴らしい活動を積み重ねてもう6年になるという。あの心の輝きに影響された人々もさぞ多いことだろう」
「6年といえば、あのとき島にいてくれた時間ってだいたい4時間だから、1/6日とも言えるよね。偶然だけど数字につながりを感じちゃったりして」
「亀の甲羅もさ、模様が正六角形ってよく言われたりするんだ。聞いた話によると、亀と正六角形って縁起が良いらしいし、今ここで祝うっきゃないと思うでしょ」
「あー、なるほどね。島民の手を借りずに亀自身で手紙を書きたいっていった意図はそこからくるのか。彼女の運気マシマシにしたかったんでしょ」
「ちょ、言っとくけどそれは後で気づいたことだから。第一には会えてよかったことと、お祝いしたい気持ち、祝わせてくれてありがとうの気持ちから来て書いたんだからね」
「ふふ、冗談だって。その気持ちが山よりも高く大きなものだって分かってるよ」
「……あ、カモメ来た。あの隣で飛んでる青い鳥が女神様の知り合いかな? あの鳥がインターネットという手段を使って手紙を届けてくれるらしいんだけど、届くかな」
「大丈夫、きっと届くよ。あの青い小鳥は海を越えて、どこまでも、ずっと向こうまで飛んでいける気がするんだ」