6周年おめでとうございます!大切な記念日をまたお祝いする事ができて嬉しいです。昨年はでろーんにとって大きな決断もあった激動の1年だったと思いますが、念願の声出しライブほんっっと楽しかった!いつも元気を届けてくれてありがとう。そんな感謝の気持ちをこれからもいっぱい伝えさせて下さい。
#文芸
タイトル「ファストフード解禁日」
配信を終えてから少し痛み始めた腰を押さえて、身体を左右に動かす。ひとつ大きな欠伸をしてから机にでろーんっと突っ伏すと、卓上カレンダーの赤い丸が目に入った。
活動を始めてそろそろ6周年を迎えようとしている。6周年を前にして、自分の中で大きな決断をした。それを実行するには少しの間、活動を休止しなければならない。最初はちょっとした夏休みくらいに思っていたし、働き続けた身体を休めるのに最適な期間だとさえ思っていた。でもこの5年間、休まず走り続けてきた私は違った。1日24時間でも足りなかった日々を送っていたはずなのに、今は何も出来ず、ただ退屈な日々を過ごしている。
朝が来る。痛みを紛らわすために変な時間に寝てはまた夜が来る。真っ暗な部屋の中、じわじわと不安が押し寄せてくる。寝ること以外することもなく、空っぽになったお腹を撫でながら、見慣れた天井を見つめる時間と涙を流す時間が増えてしまっていた。
少し大きめなベッドの上で丸くなる猫たちを両脇に挟みながら、自分が存在する意味や頑張ってる理由ばっかり考えてしまう。でも、この真っ暗な部屋の中で考えれば考えるほどわからなくなっていく。自分と向き合う時間が増えれば増えるほど、人と比べるのはよくないとわかっていても、他人を羨ましく思ってしまう。猫と寝転がっているこの時間が幸せだったはず。それなのに今は身体がずっしりと重く、深くベッドに沈み込んでいるだけ。なのに、重たいはずの身体の中は空っぽで、ずっと意識がふわふわと頭上に浮かんでいるみたいだった。
世間は変わる。流行りのファッションもコスメも、SNSでバズってるものなんて早いスピードで変わっていく。周りの人間だって、いい意味でも悪い意味でも成長して変わっていく。自分のやりたいことを見つけ、この場を去っていく人だっている。なんで、どうして。変わっていく人たちをみてそう思う。なぜか怒りという感情まで出てきた。私は何に対して怒っているのか。それも自分自身のことなのにわからない。
この6周年を前にして自分は何も変わらず、成長していない気までしてきた。姿も変わらず、この2年をループしている。楽しかった事も、嬉しかった事も、悔しかった事も、辛かった事も、確かに私の中にある記憶は存在している。それをすでに何周も繰り返しているのに、何も成長していない自分の存在価値が薄れていくような感覚に襲われて、空っぽなお腹から何かが込み上げて、今にでも吐き出しそうになった。
ピンポーン
沈み込んでいた中、チャイムが鳴った。配達のお兄さんから両手にすっぽり収まるダンボールを受け取る。それは所属してる事務所からの届け物だった。定期的に送られてくるそのダンボールには、デビュー初期から応援してくれるファンや、最近配信に顔を出し始めたファンからのファンレターが入っていた。なんで休止中のこんなタイミングで、なんて思いながらも何枚か取り出してみる。
「いつも元気をもらってます」
「でろーんのおかげで頑張れます」
「1人の人間を何年も応援し続けることは中々できないことだと思うし、だから私はでろーんに感謝しているよ」
手紙には、恥ずかしくてむず痒くなるくらいたっぷり愛が詰まった応援メッセージが書かれていた。感謝してくれる人がいる。私の存在や頑張りを見てくれている人がいる。愛を伝えてくれる人がいる。空っぽだったはずのお腹が少しずつじんわりと温かくなっていくのがわかった。くるしい。温かさでいっぱいになった胸元をぎゅっと掴んで、自分がここに存在していることを実感する。あぁ、そうだ。私は─。
グゥ…
お腹の底からまぬけな音が鳴った。足元にいた2匹の猫たちはその音を不思議そうにしていて思わず笑い出しそうになったけど、手術したばかりの喉を庇うようになんとか耐えた。
ずっと注文しようか悩んでいたメニューをスマホで眺めて、愛で満たされたばかりのお腹をさらに満たすために、今日をファストフード解禁日とすることにした。
あさと
@asato__c